そばに家族以外がいたら、かなり不思議な呼び名だが、それをたしなめるでもなく、嫌がるでもなく、フツーに返事するあたり、やはり一般の「お父さん」と違う。

そのオッサンが、千葉のじいちゃんを呼ぶときは「お父ちゃん」だ。

小さい子が発しそうな呼び名を、50過ぎてもまだ使うあたり、これまた妙だが、なんだか俺は好きだった。

「ちょっと、これ見て。ネックのとこ」

「12弦?」

「そっ。だけどベースなんだ、これ。どういうこと?」

「複弦だろ? メインの4弦の廻りに、2本ずつ細い弦がついてる。でもチューニングはGDAEで、弾きかたも、多分普通の4弦と変わらんよ」

「なんだ、良かった。12弦じゃないと再現できないのかと思って」

「12弦の方が音に厚みが出るだろうけど、4弦ベースでフツーにいけんだろ。何、チープ・トリック演んの?」

千葉の、オッサンの実家の学生時代使っていた部屋には、チープ・トリックのポスターが貼ってあった。

「まだ決めてないけど、いちおう候補」

「いいと思うよ。CMで使われてたこともあったし、耳馴染みがいい」

「わかった。あんがとな」