「えっと、続いて質問! 最初のデモのとき叩いた曲、誰の?」
「昔のバンドだから知らないと思うけど、チープ・トリック」
「んあー、わかった! チープ・トリックの『サレンダー』か」
「知ってるんだ?」
「パワーポップの元祖だろ。ニルヴァーナとかスマパンもリスペクトしてる」
「洋楽詳しいね」
「まぁ、親の影響」
「私も」
嬉しくなって、つい早足になったところ、小走りで追いついてくれた。なんか、かわいい。
「タム回し、凄いと思った。他のみんなスネアとハイハットしか使わなかったじゃん?」
「ドラム久々だったから嬉しくて…タムタムも、せっかくあるなら隈なく使わないともったいないなって。貧乏性(笑)」
でた! 貧乏性。この場合はいい意味だな。
「すんごいパワフルだからザ・フーの曲かと思った」
「それ誉めすぎ(笑)」
ザ・フーも知ってんのか。女子でそんなん初めて。
「今日叩いてた曲もチープ・トリック?」
「そうそう。甘い罠(I want you to want me)。邦題が、ちょっと(笑)…、昔の洋楽ってウケるよね」
「クイーンの、炎のロックンロール(keep your self alive)、とか? 謎なセンス(笑)」
「はっはっは」
「でも、こういうの…」
「うん、キライじゃない。ダサかわいくて、むしろ好きかも」
「だよな。声に出すのハズいけど」
「だよねー(笑)」
顔を見合わせて、俺たちはゲラゲラ笑った。
あぁ、なんかいいなぁ、こういうの。
あっという間に駅に着き、上り下りで反対方向の俺らは改札で別れた。
「じゃあまたね」
「うん、明日」
階段を降りるいつもの道が、違って見えた。
なにか、大事な宝物を見つけた気分。