「今度会う時私から彼女に連絡する」
そう言いながら時計を見ると二時を過ぎていた。
「ずいぶん長くいたのね、話し込んでいたから時間の事全く気が付かなかった。美代子はこれから何か約束でもあるの?」
「何も」
「じゃゆっくり帰ろうか」
二人は勘定を済ませて外へ出た。外はまだ暑く日陰はどこにもなかったが、日傘を広げてゆっくりした歩幅で駅の方に歩いていった。途中小さなブティックの前で止まりショウウインドウの中の洋服を見ていた。
美代子が「見て、もう秋の色よ、今年は葡萄色か」
「私なんか、子供の服は買うけど最近自分の洋服はご無沙汰ね」
「そうなんだ」
駅の正面口改札のところまで来たとき美代子が、「前からここに交番あったっけ」と言いながら改札の右手方向に歩き始めた。
花帆が「かなり前からあったと思うよ」と言い交番横に貼ってある自由が丘駅周辺の街の地図をしみじみ眺めていた。
「美代子ちょっと」と声を掛けて「駅前のロータリーを中心に道路にしゃれた名前が付いてるね、例えば先ほど歩いてきた道は『メープル通り』そして他にも『すずかけ通り』、『カトレア通り』、『ヒルサイド通り』、今まで気に掛けなかったよ」そんなたわいもない話をしていると、交番からおまわりさんが出てきて二人の方をじっと見たので、二人は顔を見合わせて改札の方に歩いた。
「今日は楽しかったね、近い内に結衣を交えてまた会いましょう」
「うん、私は東横線で帰る。花帆は?」
「私は大井町線で帰る」二人は改札にICカードをタッチしてそれぞれの方向に分かれた。