-------ベースに転向-------
やたらと忙しかった吹奏楽部を離れ、高校は軽音楽部で少し余裕をもってバンドをやると、決めていた。
今日は、一年だけで新歓発表会向けにバンドを組む日だ。
あのちっこいキース・ムーンをなんとか掴まえないと!
てか、その前に、ベースに変えるの申告しねーとな。
「シナユー、うちらと組まない?」
部室に入ってすぐ、同じ中学で吹奏楽部長だったワタさんに声を掛けられた。
「あー、うん。でも俺、ドラムやんないよ」
「へっ、何で?」
「高校ではベース弾こうかなって」
「何で? 何でよ。てか、ベースも弾けんの?」
「自己流だけどな。ドラムは散々やったし、たまには前に出るのもいいかなぁって」
「そっかー、ガーン! あてにしてたのにー」
「椎名、パート変更?」
奥の小部屋、通称V.I.P.ルームから吉田部長が出てきた。
ヴァン・ヘイレン並みの早弾きもやるが、クラプトンばりの泣きのブルースも弾ける、新入生向けのデモで俺を釘付けにしたイカすギタリストだ。
「はい。ベースに変えていいですか?」
「参ったな、今年はドラムの希望者ほとんど初心者ばっかだから、お前と臼井に教えてもらおうと思ってたんだけど」
あの子、ウスイっていうのか。
「ベースにいっても、ドラム教えるの全然いいっスよ」
「そっか? そいつは助かる。みんな何とか形になるまで、暫く掛け持ちも有りで頼むわ」
「オッケーです。で、その…臼井さんは?」
「今日はまだ来てないな」