「やめて、もうトメさんを苦しめないで。お願い、お父さん、トメさんを助けてあげて」
「美津、それはね、どうしようもないことなんだよ」
「私、私はこんなに幸せなのに、私はトメさんを、トメさんを……コ、コ、コーン、コーン」

美津は突然鳴きはじめた。そして部屋の中を飛び回り始めた。父は、抱き止めようとするが、するりと抜けてしまった。

「うわー、助けてくれー」

親分は、腰を抜かして転げるように、逃げ出した。美津は部屋の隅で、手を嘗め回している。

「美津さん」

トメは途方に暮れて美津を見つめた。

「ミッちゃん」

晴は泣き出した。

「ミッちゃん!」

喜久も近寄ることもできず、座り込んでしまった。美津は鋭く「コーン、コーン」と鳴いた。「美津さん」紀子が側により美津を力強く抱きしめた。

「コーン、コーン」
「大丈夫よ、美津さん」
「美津さん、ごめん、ごめんなさい。私のために、私のために」

外で警官が声をはりあげている。

「木島潔! ここにいるのは分かってるんだ。おとなしく出てこい」
「くそー」

あわてた木島は、窓から逃げ出した。

「ダメ、逃げないで!」

喜久が叫んだ。

「紅林先生、木島先生が、木島先生が……」

しかし、紀子は美津を抱きしめ、動こうとしなかった。

「卑怯者!」

晴は涙を流して叫んだ。