目の前に立っているミコトは、見るからに普通の、どこにでもいそうなあどけない少女のようだった。栗色の髪をした、少し小柄で、ほっそりとした体つきの女の子だ。
(どう考えたって、この子が勇者とは思えないな。)
タクは笑いをこらえながら、ミコトに向かって言った。
「そんなに細い腕では何も出来ないよ。暗黒の王の話をどこで聞いたのか知らないが、早く家に帰ったほうがいい。それからこの話は、もうしないほうが君のためだ。」
タクの表情はとても優しかった。きっと何かの物語でも読んで、主人公に憧れを持ったのだろう……、そう思ったのだ。
ミコトに背を向け、再びグラスに手をやった。そんなタクを、ミコトは何故か不思議そうに首をかしげて見ている。
「タクさん、格好つけて飲んでいますけど、それお酒じゃなくてお水ですよね?」
ミコトの観察力は、とても鋭かった。確かにタクのグラスの中身は、ただの水だったのだ。
タクは大変な酒好きだが、いつでも戦えるように普段は全く酒を飲まない。戦士であれば不思議ではなかった。特に、タクにとっては……。