「郷田家について調べていた、ということですか」
「ま、すべてではないですが、部分的に。どこかから依頼があったわけではありません。ある筋から情報を得まして、それが物騒なものだったので、被害を食い止めるため、我々の独断で動くことにしたのです。いってみればこれはまったく仕事外です。しかし先ほども申しあげましたが、生死に関わることですので、内密に一応お耳に入れておいたほうがよいかと思いまして」
田口は真剣なまなざしで、真っすぐ柚木を見つめている。その瞳に嘘はないように思えた。そこまで言われて、もう無視などできない。柚木は覚悟を決めると、きっぱりと言った。
「分かりました。どこかお店に入って話をお聞きします」
二人は駅前の商店街から少し外れた場所にある小さな喫茶店に入った。田口はコーヒーを、柚木はレモンティーを頼んだ。椅子に腰を下ろすと、田口は両手を組み、心もち身を乗りだした。
「まず始めに、詳しいお話は一切できないことをどうかご了承ください。内容が内容ですし、あなたに情報を流すのは私どものまったくの独断で、これはごく内密なことなのです」
「分かりました」
芝居がかっている、と柚木は思う。まるで刑事ドラマの中に入ってしまったみたいだ。田口は下唇をペロリと舐めると、
「ここ最近、新聞を騒がしている一連の自殺の件はご存知ですか」
突然そう言われ、柚木は面食らった。自殺。その手の記事を何個か最近読んだ気もする。しかし一連といえるほど関係があったとは記憶していない。
「はぁ」と柚木は曖昧な返事をした。