ミコトがわざわざこの村の酒場にやって来たのには、理由がある。別に、酒が目当てではない。もちろんイケメン目当て、というわけでもない。
少し前に、ある男の噂を聞きつけたからだ。
セピア色をしたその酒場に足を踏み入れると、数人の客がガヤガヤと騒がしく飲んでいた。テーブル席に五人。そしてカウンター席に一人。店内を見回した後、ミコトはカウンターで静かに飲んでいる一人の男に目をとめた。
この男こそ、ミコトが探していた人物だ。
名前は、タク。素晴らしい剣の腕を持った、若き戦士である。
この日が二人の初めての出会いとなった。ミコトより、ひと回りほど歳は上だろうか。ガッチリとした大きな体に、やはり大きく重たそうな剣を身につけている。男の首元には、クリスタルのネックレスが輝いているのが、ほんのわずかに見えた。
(あのクリスタル……。間違いない、彼だわ。)
ミコトは確信した。そして、その男に近づいて行くと、後ろから軽く肩を叩いた。
「はじめまして。私、ミコトといいます。タクさんですよね? ずっとあなたを探していました。」
タクが驚いて振り返ると、ミコトは静かにタクに微笑みかけた。タクは目を丸くしている。今まで一度も会ったことのない女性が、自分を探しに来たという。しかも、どうみても自分よりかなり若い。