少し元気な気持ちになって美津はうなずいた。

「咳、大丈夫よね」
「うん」
「おまんじゅう食べよ」
「うん!」

あわただしく庭を駆ける音がした。

「ミッちゃん!」

と晴の声がした。何かがあったらしい。晴が青い顔をして襖を開けた。

「大変よ、大変。トメちゃん、店先にね、あの春日楼の親分が来ていたわよ」
「えっ、本当に!」
「今、お店から出て行くのを見たの」

美津も蒼ざめた。

「大丈夫よ。何でもない、大丈夫よ。ただ買い物に来ただけかも知れないじゃないの」

今度は、突然、あわてて多佳が入って来た。

「大変よ、大変! 紅林先生が大変なの」
「どうしたの」
「紅林先生が、学校、首になって、寺田先生が警察に捕まって……」
「落ち着いて、落ち着いて話しなさい」

晴も興奮している。

「あの講演会じゃないのかな」

美津は言った。

「怖い! 私たちだって、学校にばれたら……あそこにいたんだし……」

晴はおびえた。

「喜久ちゃんが今どうなってるか、学校に探りに行ってるから……」
「危ないわよ。そんな怖いことするなんて」

晴は泣きそうな声だった。