第一部
第1章 開始
開閉式の、スリガラスの窓は換気のため、かすかに開かれているが、外の景色はほとんど見えない。同様に、外からも内側の様子は伺い知れないはずだ。
「さていよいよ実習に入りますが、まずこのビデオを見て下さい」
天井から数台のモニターが釣り下げられている。さっきまで消灯していたのに、いつの間にか画面に正統解剖という文字が白く映し出されている。遠隔操作ができるのだろう。
やがて画面に、静かに目を閉じ、いかにも硬直した裸の人体、ライヘが映し出される。そして、神秘的な美しい旋律が背後に流れている。
北欧の、夜の森の中を思わせる雰囲気、どこかで聞いた事が有ると思っていると、ラフマニノフのピアノ協奏曲の緩徐楽章だと思い出した。今後、この曲を聞く度に解剖の光景を思い出すのだろうな、と予想した。
やがて、自分のそうした感傷を吹き払うかのように、白銀色に光る円刃刀(えんじんとう)を握った白衣に包まれた腕が伸びてきて、一旦停止した。教授の解説が始まった。