第一部
序章 はじまり
そのとき、集団が動き始めた。僕は後方にいたのでよく分からなかったが、前方から次々と建物の中へ移動してゆく。そして、いったん更衣室へ集合させられた。やがて、どこからか富田助手がのっそり現れた。骨学実習のときお世話になり、三十路後半くらいに見えるが、ややしゃがれ気味の声が印象的だった。
まず、簡単な挨拶の後、ロッカーの割り当て、班分けなどの説明と簡単な注意があった。各自のロッカーを確認し、中に置いてある白衣に着替え、頭にもキャップをかぶり、履物も長靴に替えなければならなかった。
その後細々した注意と説明と4人一組の班分けを聞いた。全部で24組の内の第9班で、メンバーは田上(たがみ)、高尾(たかお)、高久(たかひさ)、自分だった。
それじゃあ実習室に入ってもらいましょう、という富田教官の一言で、今日は説明だけで終わるのではないか、という自分の期待は甘かった事を思い知らされた。
皆はおずおずと、なるべく人の後になるように、わざと歩調を緩めながら、それでも更衣室と実習室を分けるドアの方へ向かって歩みを進めた。その向こうには、死者たちと関わる未知の世界が待っているドアの方に向かって。