十二
すでに撤退したジンバブエの二工場を除いて、マキシマ社は南アフリカと周辺国に二十のリトレッド工場を保有している。
ニホンタイヤの斉藤和夫は南アフリカの七洋商事マキシマ社への出向を指示された時に、またアフリカか……と、逡巡しつつもこれを受けた。その大きな理由の一つは、マキシマ社がリトレッド工場網を持っているということだった。
斉藤は競合他社、というよりお手本のような存在であるフランスのフランソワタイヤの、特にトラック用タイヤでの圧倒的な強さを世界各地で見せつけられてきた。
フランソワタイヤの新品タイヤの内部には強靭なスチールコードが張りめぐらされて骨格が形成されている。
彼らはそれを活用して、新品とリトレッドを連携させたパッケージ販売を、特に欧米で一九七〇年代から展開していた。
ニホンタイヤはフランソワタイヤに対抗出来る強い骨格を持ったトラック用タイヤを持っている。
斉藤はこれを活用した新品とリトレッドのパッケージ・サービスを行って、フランソワタイヤの牙城を切り崩したいと常々思っていた。しかし、
「リトレッドは新品需要を食うものだから積極的に推奨してはならない」
という視野の狭いニホンタイヤの会社幹部がいて、なかなか理想を実行できないでいた。
南アフリカのマキシマ社は自前のリトレッド工場を持っている。しかも複数あり全国展開している。これなら顧客密着型のパッケージ・サービスが可能だ。
斉藤が南アフリカ派遣を受けた大きな理由がこれである。
斉藤の説明を聞いて、高倉は力強く言った。
「私も全く同じ考えです。究極の顧客サービスへ向けて進みましょう」
後日、斉藤を再び社長室へ呼んで、リトレッド工場の統廃合について打ち合わせを行った。
高倉は斉藤に工場の管理指標を見せながら、
「マキシマ社は南アフリカに二十のリトレッド工場を保有しています。これをしっかり活用する必要があります。そのために先ずやらなければならないことがあるのです」
「高倉さん、何でしょうか?」
斉藤は張り切っている。
「細かい技術的なことは私にはわかりませんので、数字的な実態を説明します。全工場トータルの年間生産ゴム量は三百三十トン、生産本数で二万二千本となっています。工場総人員が二百八十名です。これを平均生産性でみれば、一人一時間あたりのゴム生産量は七キログラム強となります。