十一
ニホンタイヤからの斉藤和夫の派遣で技術の芯はできた。
次の課題は販売及びローカルスタッフ全体の柱となるべきポストの設定であった。これは日本人ではとても無理で、やはり南アフリカ人でなければならない。
ケープタウンの店長をしているイギリス系白人のバート・グッドマンを候補者として選定した。マキシマ社全体が落ちこんでいる時も、ケープタウン店は堅実に売上げと利益を伸ばしてきた実績がある。顧客からも信頼されているし、五十歳という働き盛りでもある。
二週間の身辺調査を実施。高倉自身もバートと面談して、彼の能力や意欲、見識などをそれとなく探った。買収前のマキシマ社時代からのタイヤの販売経験があるので、タイヤの知識は充分にある。
またビジネスや顧客対応についても、しっかりしたビジョンを持っている。
ヤング・ライオンズを引っ張っていくには最適と判断した。
親会社である七洋商事東京本店の賛同も得て、バート・グッドマンを正式に取締役副社長として指名した。
株の七〇%を持っている親会社が賛同している訳であるから何も問題はなさそうだがそうはいかない。一応形式的に臨時株主総会も開いて最終決定に至った。
ケープタウンからマキシマ社本社のあるヨハネスブルグへバートが着任すると、高倉は直ちに彼とヤング・ライオンズの四人を呼んだ。
販売店統廃合の実施を指示すると共に、その基本的な考え方を説明するためである。
アンドルーと秋山、斉藤も同席した。
「我がマキシマ社は南アフリカ及び周辺に九十七の販売店を持っている。この中には既にクローズしたジンバブエの七店は含まれていない。販売店ごとの概要は、その一覧表にまとめてある」
秋山が一覧表を配りながら、
「販売店別の人員構成、売上高、経費、売り掛け金、在庫、利益を横並びにしています」
と、説明した。
全員がそれを食い入るように読み込み、社長がどういう方針を出すのかを興味深く待っていた。その目はまさに獲物を狙うライオンそのものであった。
その目を見回しながら、高倉は統廃合の基本的考え方を説明した。
「その表を見れば販売店毎の優劣が明確だ。基本方針は劣等店を優秀店に吸収することだ。但し、ランフラットタイヤ(パンクしても走れるタイヤ)の時代がすぐそこに来ているので、店舗間の距離は長い所でも出来るだけ八十キロメートル以内にとどめたい。これを考慮して販売店を統合したい」
分厚い胸を会議テーブルにピタッとつけているバートが質問をした。
「店舗間距離を八十キロメートルとする根拠は何ですか?」
これについては技術ダイレクターの斉藤和夫が答えた。