カウンセリングには、忙しくてなかなか行けなかった。行ったとしても、自分が惨めで、人間関係の悩みをちゃんと話せなかった。

澄世は三十歳になった。相変わらず、毎日は忙しかった。しかし、それが救いでもあった。閉塞感を感じる秘書室で、忙しくでもなければ澄世は堪えられなかっただろう。

友人達は、既に二十九歳で駆け込み婚をし、今や大晦日婚をしていた。佐紀も三十一歳で、結婚した。

澄世には彼氏の影も形も無かった。仕事だけだった。

喘息の発作とまではいかないが、ゼーゼーと息切れがよくし、その度にロッカーへ行って、こっそりメプチンエアーの吸入を吸った。

孤独感で胸が苦しくなると、時々、そっと屋上へ行って泣いた。そして、呼吸を整えて、また秘書室へ戻った。

自分でも不思議と、仕事だけはミスなくこなしていた。澄世は心身の限界を感じていた。このペースでいくと、きっと四十歳くらいで死ぬだろうと思った。今や、むしろそれでいいと思っていた。

子供の頃から『死』について悩んできた澄世には、いつも『死』が近くに感じられた。それで、出来るだけ、この世界について、早く多くを知りたいと思っていた。奇遇にもマスコミに身を置き、歳の割には早くに、世の中の成り立ちを推し量る事が出来た。