Chapter6 理想と現実
《イマイ村》
笹見平の若者の間で、ユヒトらの集落はそう呼ばれるようになった。
ユヒトはスソノ、イニギら若い仲間を引き連れ、しばしば笹見平に遊びにきた。毎回結構な量の食料をお土産に持ってきた上に、柵の杭打ちや畑作りなど、重労働を手伝ってくれる。そうしながら着実に日本語を学んでいった。
言葉の壁が薄くなり、だいぶやり取りができるようになると、林はユヒトに尋ねた。
「きみたちはどうしてぼくらにこんなに良くしてくれるの?」
ユヒトは焼けた頬をニッコリさせ、
「ここに来るのが楽しいからだよ」
「でも、食料とか手伝いとか――」
「それは長老のお達しなんだ」
ユヒトは宝石のような瞳に空を映して言った。
「人間は弱い。獣に襲われたり、火事が起きたり、噴火や大嵐に遭ったり。あっという間に死んでしまう。生きていくためには、助け合わなければならない。長老はきみたちのことを助け合う仲間だと認めた。今はまずぼくたちが、きみたちを助けているところさ」
「そうなんだ。ありがたいね」
林はうれしさに頬が緩んだが、情けなさも覚えた。笹見平は弱いという事実を突きつけられた気がしたからである。頼りなく思われているからこそ、イマイ村は食料や労働力を提供してくれているのだ。
「イマイ村は、ぼくたち以外にも交流している集落があるの?」
「ほんの少しね。でも、ほとんど親しくしていない」
「どうして?」
「どうしてって……どうしてかな」
「自分たちのことなのに分からないの?」
「ぼくが生まれた時からそうなんだ。きっと先祖同士で喧嘩になったんだろ。仲直りせず、それっきりなんじゃないかな」
林は考えた。この時代は水源や猟場など縄張り争いの時代なのだ。縄張りの均衡が保たれている限りは、お互いに牽制し合って、近寄りもしなければ、けしかけもしないのだろう。
北にそびえる本白根山の、頂(いただき)の白い部分が広がっていく。
冬が近い。
林は先行きが不安だった。笹見平に蓄えられた食料は、日に日に減る一方。五〇名近いメンバーを養っていくには、生産力を大幅にアップしなければならないが、進行中の手立てはどれも頼りなかった。最近の笹見平はイマイ村の「お土産」に頼りがちになっている。
ユヒトが言うには、イマイ村は親類縁者で寄り集まった集落で、全部で四〇人前後とのことだった。人数は笹見平より少ない。その小規模集落が、自分たちより大勢で食べ盛りの集団に食料を援助しているのである。どう考えても、自分たちは甘え過ぎだ。
そんなことを考えて鬱々(うつうつ)としていると、ユヒトがこんな提案をしてきた。
「今度ぼくたちの狩りの方法を教えてあげるよ」
「本当? できるかな」
「大丈夫。とびっきり簡単なのを教えるから」
林は喜び、さっそく笹見平のメンバーに「ユヒトの狩猟講座」を募った。すると大学生中学生を織り交ぜて、十人の希望者があった。もちろん林も参加することにした。