手術説明によると、無くなった鼓膜は、こめかみの筋膜をとって作り、炎症で溶けて無くなった耳小骨は、セラミックで作るとの事だった。凄い事が出来るものだと、澄世は人ごとのように感心した。

局所麻酔だったので、起きており、耳に麻酔の注射を打たれるのも、メスで切って耳を引っぱられるのも、一部始終がわかった。骨を削っているのか、ガンガンと工事現場のような音がして辛く、ずいぶん長いように感じた。

術後説明を受けると、切ってみると、中耳に真珠腫が出来ており、想定外の事で、それを除去する為に手術時間が長くなったと言われた。真珠腫なんて、何だか美しい名前の病気だな、と澄世は思った。

術後、食事をしたら、舌の左半分の味覚がなくなっており、びっくりして、医者に言ったら、耳を切ると味覚の神経も切れる事があり、ひと月もすればつながり、味覚は戻るから心配ないと言われた。

実際、ひと月を過ぎた頃から、味覚は戻った。とにかく、長年患っていた慢性中耳炎だけでも解決し、良かったと思った。

それに、ステロイドを止めたが、もう足裏のアトピーは出ず、その事を澄世は何より喜んだ。鼓膜が出来たおかげで、風がスースー頭へ入る感じはしなくなったが、聴力はあまり戻らなかった。

秋になって、職を探していると、S銀行に勤めている佐紀が、知り合いの紹介だと勧めてくれ、おかげで、澄世は放送会社M社のアルバイトを始めた。