Chapter5 対立
未知の人間にこれほど手厚くしてくれるなんて。あまりに出来過ぎた話ではないか――普通ならそう思うところである。けれども林は、そうは思わなかった。むしろどんどん仲良くしたい。
というのも、笹見平の面々は、縄文時代を生きる知恵も技術もない。この時代にたくましく生きている縄文人と共存することこそ、時間漂流者たる自分たちの生存の道ではないか。この村人たちが、たとえ血も涙も無い集まりだったとしても、それでも手を携えて生きなければならないのではないか――。
――早坂君だったら何と言うだろう?
早坂なら拒むだろう。彼は歴史を変えかねない全ての干渉を拒絶する。林はその立場に対して、程度の問題としつつ、柔軟に対応したかった。だから今井東平遺跡の探検に賛成したのである。そして想像通り、縄文人と出会うことができた。
だが実際にこの状況になってみると、少し怖い気もする。
――もっと議論をすべきだったかなあ。これで歴史が変わってしまったら、ぼくらの現代は消滅するかもしれない。
だが、もう遅い。
土器の飲み物は酒だった。しかもかなり強い。林は一口飲んだ途端に気持ちがふわふわして、じきに物を考えるのが億劫になってきた。見れば砂川や盛江もとろんとした目をしている。
数十分後、彼らは昼と同じように、縄文の若者らと酔狂な異文化交流に興じていた。その中で、「コンニチハ」「オイシイ」「タマゲタ」「アリガトウ」「オツカレサマ」など、ごく簡単な現代日本語を伝えられたのは、大きな成果だった。
翌朝。林は薄暗いうちに目を覚ました。こめかみが痛む。身を起こすと、他の探検隊も目を覚ましていた。みな頭を抑えている。
今日は真っ直ぐ笹見平に戻ろう。林はそう決めた。たった一泊二日の旅だが、物凄い収穫だった。早く笹見平のメンバーに伝えたい。袋倉駅のこと、白いワンボックスカーのこと、今井集落のこと。みんなきっと目を丸くして驚くに違いない。沼田と早坂だって、主義はどうあれビックリはするだろう。