「引き上げるんですか?」

「こいつが登り返せなかったらな」

「あの、藤山さんは?」長倉が聞いた。

「藤山?」

「下の人」

「ダメだね。もうそろそろ死ぬよ。スリングで固定しておいたから落ちることもない。小禄は春になったら回収できる」

「そんな……」

「お前一人引き上げるので精一杯だ」

「ひでぇ、酷すぎる……」

「お前、いい加減にしろよ」と、鬼島の声が荒くなった。

「ぐずぐずしていたら俺らも危ない。無理だよ」と川田が言った。

「だったら、あの……ここで待機して救助を待つとか……」

長倉はもはや泣き声になっていた。

「少くとも明後日にはとんでもない寒波が来てドカ雪になる。その時点でこんなところにいたら三人とも凍りついて終わりだよ」と川田は長倉の肩に手を乗せながら言った。

「長倉君、冬の剱は本当に厳しいんだ。今、俺らだって危機的な状況にいることくらいわかるだろう?」

 

▶この話の続きを読む
今日ヘリを飛ばすのは不可能。救助のチャンスは明日の夜明けから昼前まで。それを逃すと、次のチャンスは4、5日後…

👉『小窓の王』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】不倫して4年が経った頃、彼と初夏の信州へ。昼は景色を眺め夫婦のように寄り添った。夜は熱い口づけと抱擁。その肌のぬくもりは今も忘れられず…

 

ゴールドライフオンライン(GLO)は、表現者を応援するウェブメディアです。
生身の人間が紡ぐリアルな言葉だからこそ、読者の心を揺さぶる力があると確信しています。
あなたも、"表現者"になってみませんか?
ゴールドライフオンライン(GLO)編集部:glo_henshu@gentosha.co.jp