3時間半を返してくれ。これでもいっぱしの芸能人なんだわ、そんだけ私を拘束すれば数万はくだらない。
それだけの時間と怒りを費やして、私の中には何も残らなかった。
鏡のような水面に石を投げ込んで、波紋だけ広がって、石は沈んで、水はまた凪いで終わる。それだけ。それだけだ。
気づいたら、ソファの上で、膝の上に本を乗せたまま、私はただのOL並みに夜中に小説の主人公を罵倒し続けていた。
本山千晴が。
知性派タレントが。
コメンテーターが。
1人でソファに座って架空の女に怒鳴り散らしていた。ニヒリズムに満ちた目で主人公をこき下ろしていた。知らない人間に見せたかった。見せたくなかった。この姿を他の誰にも見せてはいけない。でも今夜誰にも見られていないことが、急にひどく寂しかった。
いつからこうなったんだ?
本当にいつからこうなったんだ?
昔は違った。確かに違った。物語の中の登場人物が泣けば一緒に泣いた。怒れば一緒に怒った。選択の場面で一緒に迷った。読後しばらくその世界の余韻の中にいた。
誰にも打ち明けられない感想を胸の中に溜めて1人で抱えていた。1人で抱えることがむしろ心地よかった。その感想は私だけのものだった。本の中の人間だけが正直だった。痛みを痛みとして書いてあった。嘘をつかなかった。
それが今ではまともに内容が入ってこず主人公の言動にケチをつける始末。成長か退化か。退化だ絶対退化だ、そんなことわかってんだ。
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