普通なら、教授室を訪れる人間は、事前に秘書を通してアポイントを取る。緊急の場合でも、ノックくらいして名前と用件を言ってから入室する。ところが目の前の男は、約束もなく、ノックもせずに入ろうとしている。
「今から回診がありますので」
梅澤は無視して男の脇を通りぬけようとした。
目の前の男は、体を動かして行く手を阻んだ。
「先生、中に入ってください」
「今から回診なんですよ」
医局で医師と病棟婦長、担当薬剤師、研修医、それに、臨床実習で回ってきている6人の学生が、教授回診の開始を今か今かと待っている筈である。
梅澤は、少し腹立たしく思った。
しかし、目の前のいかつい男は全く意にも介さずに、高飛車に命令した。「いいから、中に入ってください!」と鋭い目つきで梅澤を睨みつけている。教授室を訪れる者の目つきではない。
梅澤は、目の前の男の気迫と只ならぬ気配を感じ、一、二歩あとずさった。
「グキ!」再び腰骨が悲鳴をあげた。
先頭の男が、教授室に入ってきた。
教授回診があると訴えているのに、一方的に入り込んできた。この男達は、一体、何者なんだ。
「河北警察署の三井といいます」懐から警察手帳を取り出した。
梅澤は、つられてその手帳に目をやった。黒革の手帳の表面に河北警察署と金字で刻まれていた。
続いて6人の男達も教授室に入ってきた。
梅澤は、背面の痛みとは別に寒気を感じた。
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