名前が出る。顔が出る。これは通貨になる。将来使える実績だ。「入学パンフに掲載された」という事実は、履歴書の隅っこには書けないが、自己紹介の文脈で使える。中学生向けの読み物に載った優等生という文脈は、一定の信用を生成する。信頼をいかに築けるかというゲームなのだ、人生は。
インタビュアーは20代後半の女性だった。
清潔感があって、笑顔の作り方が上手で、質問の間に「なるほど」と「すごいですね」を等間隔で挟んでくる。プロだ。相手を気持ちよくしゃべらせる技術の持ち主。私も似たような技術を持っているから、その構造が透けて見えた。見えた上で、乗った。乗ること自体に損はないから。
「高校生活で一番大切にしてきたことは何ですか?」
友人関係と勉強の両立、と答えた。
両立。笑わせるな。天秤の片方に友人という名の駒を乗せて、もう片方に成績という通貨を乗せて、どちらが重くなりすぎないように微調整し続けた3年間を『両立』と呼ぶなら、まあ、両立だ。間違ってはいない。
「友達との思い出で印象に残っていることは?」
修学旅行で夜中まで話したこと、と答えた。
修学旅行。京都だった。夜、消灯後に4人で布団に入りながら将来の話をした。「何になりたいか」という話。
私は笑いながら「まだ分からない」と言った。本当のことだった。でも「本当のこと」だからといって、それが「正直なこと」かというと、違う。「まだ分からない」には「分かっていても言えない」という意味も内包されていた。
インタビュアーが頷きながら何かをメモしていた。
この場の空気は温かくて、前向きで、爽やかな青春の香りがした。言語化するなら制汗スプレーの香りといったところか。要するに青春の香りというのは、希望のふりをした嘘の匂いだ。制汗スプレーだって香料と化学物質で虚像を作り上げているだけに過ぎない。私はその匂いの中心に座って、完璧に馴染んでいただけだ。
次回更新は8月2日(日)、16時の予定です。
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