【前回の記事を読む】知らない人と何度も身体を重ねた。初めては高校1年生の時、ビジネスホテルだった…。私の中で1番厄介だったタイプは……

6.異次元の暮らし

ある夜、歳の近い男の部屋に泊まったことがあった。

21か22だったと思う。マッシュヘアの見た目がいけ好かないその男は大学を中退して、バイトを掛け持ちしていると言った。部屋は狭くて、本が多かった。

その多さは異常だった。壁一面が本棚で、本棚に収まりきらない分が床に積まれていた。ひっ迫という言葉がぴったりだった。通路を作るように積まれていて、その通路を通って奥に進むと、また本棚があった。読みかけのまま伏せてある本が、あちこちにあった。

人が生活しているというより、本の隙間に人間が何とか住んでいる感じだった。

私は横目でタイトルを確認した。知っている名前があった。読んだことのある本があった。思わず手が伸びた。

「それ読んだの」と彼が言った。

「読んだ」と私は答えた。

「どうだった」

「悪くなかった」

「俺は最後が好きじゃなかった」

「私は最後しか好きじゃなかった」

そんなところからぽつぽつと話が始まった。

「なんで家出してんの?」と聞いてきたのは、それから1時間後だった。

「いろいろあって」と返した。

「親か?」

「まあ」

「うちも最悪だったよ」と彼は言った。詳細は話さなかった。私も話さなかった。

でもその夜、私たちはお互いの家庭の最悪さを開示しないまま、深夜の2時までなんとなく話し続けた。それは良かったのかもしれない。最悪さの自慢大会だけして、傷をペロペロなめ合うのは形容しがたい醜悪さがあるから。見るに堪えないから。

体の関係はなかった。求めてこなかった。そんな目線は感じなかった。

翌朝、「また来ていいよ」と言われた。

その言葉に甘えて5回ほど泊まった。

毎回、本の話をした。

本の話をしている時、私は計算していなかった。返報性も、ポジション管理も、標的リサーチも関係なかった。ただ純粋に本の話をしていた。