セットリストNo.1(第一章)
11 Be Happy – Mary J lige
六本木に、戻るまでの何分かのあいだ、行きとは違って、たくさんの話をしながら2人は、及川の待つNULLSへ向かった。
店の前にある道路は、あまり広くはないけど一瞬で済む用事だから、路上駐車。
「すぐに戻るから、ここにいてね」翔一は、新二から受け取った紙袋を持って、ダッシュで階段を降りていった。
香子が、返事をするタイミングを完全に逃すほど、彼の動きは素速かった。
この空間で動く人間達とは明らかに違うスピードで、フロアーに飛び込んできた翔一を即座に見つけ、及川は歩み寄ってくる。
ここでは、どんなに大声を出して人を呼んでも無駄。
それは、1つの例外もなく徒労に終わる。
だから、探される側はその場を動かずに目標を探す。
探す側は、常にエントランスに注意を向けておく、これはここらでの常識。
ポケットの中から「KOOL」を、1本だけ取り出して火をつけると、肩をコンッと1度、ノックされた。
及川は、ノックした手を、そのまま翔一の肩にのせて
「早かったね、ごくろーさんです」翔一の耳のすぐ近くで、言った。
今、NULLSのダンスフロアーには、気を失った人間に、見えない糸をくくりつけて誰かが上から操っている。
そんなイメージを連想させる完璧に振り付けられたパフォーマンス。
そのパフォーマーからは、全く意識が感じられないくらいの、すごく、ウマイ奴ら5人ぐらいがチームダンスをしていた。
今夜のダンスフロアーはいつもより、ずっと輝いている気がした。
持ってきた紙袋の中から、新二が分けた100グラムのブロックを、及川に渡しながら
「あいつらうまいね、よく来るの?」翔一は、うまいダンスをみると、自分も、踊りたくなる癖がある。
DJを始めたとき、それよりももっと前から踊ることが好きだったから。
「あー、あいつら『ZEE』だよ。俺もよくは知らないけど、最近は、けっこうテレビに出ててさぁ、曲もシングルで2、3枚出してるらしいけど」及川は、あまり、興味なさそうに答えた。
「ZEE? ふーん……」翔一は、踊りたくてムズムズしていた。