五
マキシマ株式会社の本社は、ヨハネスブルグ・シティーの北に位置するS地区の郊外のW地区というところにある。
W地区に隣接して、タウンシップと呼ばれる広大な黒人居住区のA地区がある。
三階建てビルのマキシマ本社の裏には、会社所有のリトレッド(タイヤがすり減ったあとに新しいゴムを貼り付け、再使用可能とすること)工場と製品倉庫が隣接している。
本社ビルは手狭なために、道路をはさんだ対面にももう一棟、三階建てのビルがあり、こちらには主に経理部門がある。
二棟の本社ビルの間の道路は公共道路であり、A黒人居住区の住民が常時往来している。
もちろんほとんどが真面目な黒人だが、たまに危ないのがいるので、本社ビル間を行き来するたびに、社員、特に白人や日本人は緊張を強いられている。
ショッピング・モール内で秋山と面談した翌々日の月曜日、高倉は七時からの役員会に備えて六時半に会社に着いた。
社長室は本社ビルの三階の一番奥にある。
社長室入口扉をガードするように、秘書のアンネマリーの机があり、彼女はもうすでに仕事についている。
社長室の扉を開けると、正面に執務机があり、後ろの壁には二枚の大きな地図が貼ってある。
一枚は世界地図、もう一枚は南アフリカとその周辺国で、それにはマキシマ社の販売店とリトレッド工場の所在地が赤と青のピンで示されている。
執務机の手前に打ち合わせ用の丸テーブルと椅子が四つある。入って右側が窓で、その手前に観葉植物が置いてあり殺風景な部屋に趣を与えている。
かなり質素な社長室だ。前社長のケニー・ブライアントは広々とした豪勢な社長室にいたが、高倉が着任後すぐにこちらに移動したものである。
彼が入室すると、アンネマリーがメモ帳を持ってついてきて聞いた。
「コーヒーをいれますか? 何か用事はありますか?」
「すぐに役員会に行くからコーヒーはいらない。用事は会議が終わってからだ」
彼はそう言って、廊下を真っ直ぐに行った突きあたりにあるボードルームへ向かい、七時五分前に席についた。