第1章 医療
今年も元気です
「お蔭様で元気で過ごしています」。Sさんから今年も年賀状が届きました。もう20数年続いています。
大学を経由し、愛知県のある市からSさんが当院を紹介され、受診されたのはもう20数年前のことでした。膵臓の管にはまり込んだ結石(膵石)のため石より尾側に膵液の溜まった袋(囊胞)を生じたのです。受診された時のSさんは囊胞に体外からチューブが入れられていました。
「治療には原因となった石を取り除くしかない」と判断され当時体外式結石破砕装置を備えていた当院を紹介されて来たのです。しかし衝撃波を照射しても膵管にがっちりはまり込んだ結石はびくともしません。
「手術された方がいい」と勧める私に対し「せっかく坂下まで来たのだから何としても手術せずに治して欲しい」とのSさんの懇願です。様々な検討を加えた結果、化石医師が選択したのは当時誰も行ったことのない治療方法でした。
胆管あるいは尿管の結石に対し管の中に電極を差し込み直接結石に当て結石を破砕する電気水圧衝撃波という治療法があります。それが応用できないかと考えたのです。
胆管、尿管の場合は内視鏡で観察しながら行います。しかし当時は膵管内を覗く内視鏡はありませんでした。衝撃波が膵管を損傷しないように工夫を加えた後、X線透視下に石の破砕を行いました。その結果膵石は見事に破砕されました。しかし誰もやったことのない治療を行い何が起きるかわかりません。
その夜私は合併症が起こらないことを願って眠られませんでした。結果はSさんの毎年の年賀状の通りです。