【前回の記事を読む】就寝中、夫は突然“誰か”と会話するようになった。だが彼は眠ったまま、両手を激しく動かし続けていて…それは訃報を聞いた時期と……
私が空を飛ぶ理由~つばめのつばさ~
地面から空に向かって羽ばたけるか
「空を飛ぶ」ことについて、私も最初は夢だから適当にできるのだとしか考えていなかった。でも夢だからこそ、現実より高速で両手をバタバタすれば、もしかしたら地上から自分の意志で飛べるのかもと発想してみた。
ふつうの人があきらめるタイミングを超えて、私は両腕をぶるんぶるんと振り続けてみた。やはり重たい体は地面に張り付いて、びくともしない。
私はしつこかった。今度は空気を下に押す意識を強くしてみよう。そういえばクロールを教わったとき、単純に腕を回転させるのではなく、三次元で水を後ろに押し出せと指導された。それを下に向けてやればいいのかも。
何度も何度も試行錯誤してみる。疲れたら少し休んで、また腕を振ってみる。本当にしつこい。半分現実の意識もあるから、自分がベッドの上で腕を振っているのがわかる。今は隣には誰もいない。気兼ねは無用だ。
何度も何度も何度も何度も繰り返すうちに、足は地面に着いたままながらも、気持ち体が浮かんだような気がした。あれ? この感覚は何だろう。
気のせいかもしれないと思った。掌は下に向け、いくつかの改善点を意識してもう一度やってみよう。すると体が一瞬本当に浮いた(地面を離れた!)と感じた。
「嘘でしょ!」
さらに10回目くらい、ああでもないこうでもないとやり直した。ほんの一瞬体がふうわりとして、足の下に空間ができていた。腕の振りをやめると、どすんと落ちる。どうやら効率のよい振り方が連続して一定以上続いたときに大きな浮力が働いているようなのだ。何事にもコツはある。
中学ではサッカー部にいたが、自分より小柄で筋力のなさそうな仲間に、めちゃくちゃ強いシュートを蹴れるやつがいた。当然周囲は、「どうしてそんなに強く蹴れるの?」と聞く。彼は「コツとタイミングだよ」とさらりと言ってのけた。
ボールを足の甲のある一点に当てて思いっきり振ればいいだけなのだと。しかしその一点に毎回当てることが難しい。彼はその技をとことん練習して身に付け、磨き続けていたのだ。
体はある程度の高さまで浮けば、腕の振りを一、二度失敗しても簡単には落ちていかないこともわかった。むろん油断すれば落ちてしまうだろうし、もっと高くなりたければ強く振り続けるしかない。
浮遊することに少しずつ慣れてきた。ようやく一メートルほど上がったところで、さすがに腕が疲れてきた。ひとまず地上に降りて休もう。手を止めると容赦なく落ちる。着地した際に衝撃があって、足の裏がジンとしびれた。