一席目 リターンは二千九百九十七服!

「今……なんて言った? 柊……」

「二千九百九十七服……」

紅葉山(もみじやま)高校茶道部二年、茶道部部長の柊は、隣に座った副部長の木更津錦生(きさらづにしき)の腑抜(ふぬ)けた声に答えて、ゆっくりと数字を読み返した。

十一月五日、水曜日の午後、紅葉山高校の情報科学室に集まった茶道部の二人は、三人目の二年生部員、会計の水瀬斗真(みなせとうま)とともに、パソコンの中のエクセルの数字を見つめて固まった。

事の発端は二か月前にさかのぼる。

二学期初日、茶道部の活動拠点であり、学校を建てる前から紅葉山を借景(しゃっけい)として建っていた茶室の紅葉楼(こうようろう)を売却予定だと顧問から聞かされた。

紅葉山市のこの私立男子校は、生徒の八割がプロや日本代表を目指すスポーツ推薦クラス、一割が地元の産業発展のための家業経営クラス、そして、あとの一割が都内からの受験生がいるほど人気の進学クラスで構成されている。

学校は、スポーツ推薦クラスのリハビリと故障の生徒の受け皿としての水泳部を強化するために、大型室内プールの建設資金が必要だった。

維持費にもお金がかかる茶庭と池を含む紅葉楼は、国管轄の茶室を修理したという地元の宮大工が建てたもので、それなりの額で売却できると査定されていた。

一度は生活科学室の和室を茶室に改造する学校側の案を受け入れたものの、後世のために茶室を残したいという部員の働きかけで、売却額とほぼ同額を目標としたクラウドファンディングを立ち上げ、紆余曲折(うよきょくせつ)の末、先週の金曜日、十月末日に目標金額を達成した。

だが、リターンとして、一万円の寄付者には一回、十万円の寄付者には十回の茶席招待を提示していたことで、茶席数は半端ない延べ回数になっていた。

柊は達成した日に返礼品数は把握していたが、さすがに一年の三人を含め部員全員が疲れきっていたため、週が明けるまで伝えるのを待った。昼休みに集まってもらったのは、まず二年で戦略を立てなくてはと思ったからだ。