プロローグ
一瞬、その光景は幼い頃に見た運動会の玉入れのあとのように見えた。
やめと言われ、皆で息せき切ってしゃがんだ先に見える、運動場に散らばった紅白の玉。
だが、違う。目の前の紅白は玉ではない。
花だ。すべてもぎ取られた椿(つばき)、侘助(わびすけ)の花。
花だけではない。刃物で切り落とされた緑の葉や枝も飛び散っている。
大事に守られてきた紅葉楼(こうようろう)の茶庭(ちゃにわ)が踏み荒らされている。
なぜこんなことになっているのか。いったい誰が、いったい何のために?
そして、その誰かは、落ちた椿を激しく踏みつけている。
地面に食い込むほどに踏みにじられた赤い蕾つぼみ。
いたずらとは思えない。足跡から憎悪がとぐろを巻いて立ち上っている。
これがいったい、今後、自分がやろうとしていることにどんな影響をもたらすのか。
こんな状態で続けられるのか、御礼茶会を。
もし続けられないとなったらどうなるのだろう。
この先、最悪の事態が待っているのではないだろうか。
桧山柊(ひやましゅう)は目の前の光景に、次に起こる状況の連鎖を想像し、上ってきた階段が足元から崩れ落ちるような錯覚に襲われた。