「お父さん、思い切って、一人で行ってらっしゃいよ」

妻はおそらく、この機会に私をいくらかでも外に出したいのだろう。しかし、いまの私に、その気概はまだまだなかった。

妻は公務員で安定した稼ぎがあり、実家は義兄が不動産屋を経営しているため、格安で借家に住まわせてもらっている。私はというと、国の支援制度によって医療費を一割負担に軽減する措置を受けながら、精神科病院への通院を自身の務めとしている状態だった。

八月二十日、月曜日。甲子園行きを諦め、自宅のテレビで準決勝を観戦した。

明日葉高校は一回に先制点を挙げ、五回にも追加点を挙げた。

――このまま、いってくれ!

期待は膨らむ。相手校は一点を返したものの、最後には明日高の勝利の雄叫びがグラウンドにこだました。そして、彼らの名物である、大きく後ろにのけぞる体勢で歌う〝海老反り校歌熱唱〟が鳴り響いた。

「やった! あど、決勝だげだ」

私はテレビを前に一人興奮し、涙を流しながら居てもたってもいられなかった。

「良かったね、明日もきっと勝つよ」

「ああ、絶対勝つ。――ところで、可南美」明日高ナインの活躍に興奮冷めやらぬ私は、仕事帰りの妻に無理をいった。「例の店さ、連れで行ってけねが」

一日中自宅に引きこもり、テレビにかじりついている私を見かね、「仔犬でも飼おか?」 といい出したのは妻の方だった。

「お父さん、決心がついたの?」

「んでね。だども、なんだがじっとしていられなぐでな。悪りな、疲れでるどご」