何故か静子は目を逸らした。部屋に入ると、静子は優人に背を向けたまま話し始めた。……少し硬くなっているようだ。

「……永村さん来たね、今日。女の人と。すれ違っただけだから挨拶しかしてないけど」

「ああ、もうすぐ異動になる同僚なんだ。それで来週七人くらいで送別会やるって」

「うん……予約したみたいよ。何か食べる?」

「サンキュ……。あ、風呂溜めとくよ俺。一応飯は買ってきた」

何だかぎこちなかった。付き合い始めてから、まる一週間会わないというのは滅多になかった。少しばかり罪悪感にかられた。

「ごめんな、最近来れなくて。バタバタしてて……。ほら、ラインで話したろ、兄貴が結婚するんだ。引っ越しもあるし」

実際は正人の引っ越しの手伝いなど何もしていないのだが。

「そうだね、良かったね」

静子は台所に立ち、湯を沸かし始めた。帰れと言う気はなさそうだ。優人はほっとした。

「賄い食べなかったの?」

「食べる時間がずれちゃって……。優人、今日泊まるの?」

「え……?」

泊まるの、という質問は珍しかった。いつも当たり前のように泊まっていたから。

「駄目なの?」

「駄目というか……あのね、正直に言うと……したくないの。だから、何もしないでほしい」

これには驚いた。俺に抱かれたくないって? 静子が?

「……何で? この前も……」

「……疲れてるから……何か、そんな気になれない。最近忙しくて……」

……やはりみどりのことを気付かれているのか。

『火点し時』の試し読みはここまでです。次回からは『冬隣』の試し読みとなります。

  

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隣の部屋から声がした。男女の、抑揚ある溜め息まじりの…すぐに“あの声”だと分かった。つい聴き入っていると…

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