第2章 リスクテイキング行動(不安全行動)

3、具体事例

〈事例6;データ改ざん〉

あなたはある機械メーカに勤めています。社では主力機器の開発を行っており、あなたは検査部門の長として数名の部下と共に開発の一端を担ってきました。

新規の機器に使用する部品は、自社と外部の協力数社から供給されます。そのために3年前から各社を回り、各社の製造ラインや作業基準のチェック、従業員の指導に至るまで、多くの努力を重ねてきました。あと数日で販売を開始するまでに漕ぎ着けたところです。

そんなある日のこと、B社が供給する部品が原因で、ある特別な使用状況において製品仕様が謳うところの性能が出せないおそれがあることが判明しました。

部下の1人、Y検査員が出荷のための製品検査をしている時に、その傾向を見つけたのです。あなたは直ぐに検査部内のメンバー全員を集めて対策検討会を開きました。

トラブルを完全に解決するためには、今使用しているB社の部品を別の部品に交換する必要があります。そのためには、新しく部品を設計し直し、製造し、交換する必要があります。それには多くの時間と費用がかかります。

すでに出荷した製品を全て回収することも必要です。全てを行うとなると、自社が負うべき損失は膨大な額になってしまいます。会議はなかなか結論に至りません。

その時です。部下の1人が、「今この事実を知っているのは、ここにいるメンバーだけです。性能も通常の条件で使用するのであれば、特に問題は起こりません」という意見を述べたのです。

会議では、それから誰も何も言えなくなってしまいました。その日の会議はそれで終わり、そのまま何の対策も施せずに発売の日を迎えてしまったのです。

【検討のポイント】

製品の適合・不適合を評価するとき、規格内の品質をギリギリ維持しているケースがあります。それがいくつもの製品の中の限られた物であれば良いのですが、製品の大多数がそのような状況にある時、その組織の社風で対処の仕方は大きく異なります。

組織は考えの異なる大勢の人間で構成されています。組織としての理想は、全員が同じ目標に向かって足並みをそろえることです。そのためには、組織のメンバーに“組織の方針”を示し、理解してもらう必要があります。