「良かったですよ! サックスっていいもんですね! カッコ良かったです」
「これはどうも……河井と言います。しずちゃんの友達?」
静子が頷いた。友達って。優人が答えた。
「付き合ってます。こっちは僕の同僚ですよ」
「しずちゃんの彼氏か、なかなかイケメンじゃない」
静子は黙ったまま曖昧に笑った。
「ごゆっくり。では」
河井が次のテーブルに行くと、静子も去った。演奏中はオーダーできないので、合間の今はあちこちオーダータイムだ。
「河井さんか、人気あるの分かるな。カッコいいな。大人って感じだ」
河井が次に着いたテーブルは女性グループで、賑わっている。
「そうだな……」
ラストオーダーの時間になると、残った二、三組の客も帰り支度を始めた。ざわめきは去り、スタッフは忙(せわ)しなく各テーブルを片付けていた。
「しず、待ってるから一緒に帰ろう。俺明日休みだから」
「まだ三十分くらいかかるけど……。永村さんは帰ったの?」
「うん、あいつは明日仕事だから」
静子は黙って優人の前の皿を片付けた。
「水だけ置いといて」
静子が去ると、優人は会計を済ませた。優人以外の最後の客の、OLらしき女性二人組が河井と話し込んでいた。やがて河井はサックスのケースと上着を手に、三人一緒にスタッフに挨拶して出ていった。
帰り道、静子はあまりしゃべらなかった。と言うか、今気付いたが、最近あまり話していないような気がする……。ちょっとみどりにかまけすぎたかな。こうして並んで歩くのも久しぶりだ。
「明日は何番?」
「同じ遅番……。疲れたからすぐ休むわ」
愛想ない返答に何だかもやもやする。
「何か心配なことでもあった?」