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「あ、柊さん。申し訳ありませんが、今日、本社に来ていただけませんか?」
東雲社長が直々に副社長の件で話があるという。総務部長の川本から電話を受けた柊は、出社できるこのタイミングを使って、加納が最後に調べていた業務について探るつもりでいた。社長からの呼び出しはむしろ好都合で、直接加納の死についての反応を見ることができる。
「ただ今来客中ですがもうじき終わるはずなので、社長室の前でお待ちください」川本はそう言うと柊の耳元に小声で囁(ささや)く。
「お願いですから余計なことは言わないでくださいよ。そうでなくても副社長が亡くなって引き継ぎやらなんやらでバタバタしてるんですから。くれぐれも社長を刺激しないでください」
「もちろん川本部長にご迷惑になるようなことはしませんから」
しらじらしい笑顔を浮かべてそう言うと、柊は最上階の社長室へと向かった。
本社ビルの最上階、10階には社長以下、役員専用の個室が並んでいる。そのいちばん奥の部屋が東雲のいる社長室だ。もっとも普段はほとんどおらず「港区の別室」でくつろぎながらいろんな戦略を立てているらしい。今日は社長がいるせいか、いつも以上に澄ました顔で女性秘書が座っている。
ドアが開くと明らかに社内の人間にはない、圧倒的なオーラを纏(まと)った長身の男が出てきた。
50歳前後だろうか、ウェーブのかかったやや長めの髪をきちんと整え、鍛え上げられた身体に、見るからに仕立ての良いスーツを着こなしている。まるで人気女優と結婚したIT実業家のような自信に満ち溢れていた。柊は思わず見つめてしまい、自然と目が合った。 ――何者だろう。