関東エナジー開発の社長である東雲に誘われれば、真面目な加納は最後まで付き合い、午前帰宅は当たり前だった。酒の席で何か起こっても、自分がその場にいたら多少なりともすぐに対応できる。この会社での自分の立ち位置は痛いほど分かっていた。

納得のいかない転籍ではあったが、役員として骨を埋(うず)める覚悟は本物だった。だからこそ良くしたいという思いは誰よりも強かったはずだ。

並んだ名刺に目を落とし、柊は考え込む。

「主人は……どんな人でしたか」

静かに問いかける恵子から窓の外に目を移し、柊は少し考えてから口を開く。

「真面目な人でした」

恵子は口元に寂しげな笑みを浮かべ、小さく頷いた。

「私たち家族に何不自由させることなく本当に立派な夫でした。家族には見せない何かがあったんでしょうね」

「……」

「私が知らなかった主人を知りたいんです。分かってあげたいんです」

柊は再びメモに目を落とす。

「これ、しばらく預からせてもらってもいいですか」

「もちろんです。そのつもりでお持ちしましたから」

恵子はメモ帳とファイル、スマートフォンを柊のほうへそっと押しやり、「そろそろ失礼します」と立ち上がった。

頭を下げる恵子に、柊は静かに声をかけた。

「自分も同じです。どこまでできるか分かりませんが、私も加納さんを知りたいですね」

恵子はかすかに微笑んで頷くと玄関へと向かう。凜(りん)と背筋を伸ばして恵子は帰っていった。一人リビングに残った柊は、恵子から預かった三つの品を机の上に並べて独り言のように呟いた。

「……それにしても、なかなか厳しい案件だな」