セットリストNo.1(第一章)

9 I Need You–Maurics White

香子は、そんな小さな変化でも聞き逃すようなドジじゃなかった。彼女は、今翔一から与えられた初めての幸福感を、内側で感じていた。

翔一には、彼女がすごく嬉しそうな顔をしているのが、何故なのか解っていない。ガラスケースに顔を向けて、そこに並べられている商品を、2人は並んで眺め始めた。

ケースの中には、腕時計や装飾品類からなにに使うのか、普通の人じゃ解らないような薬品入りの茶色い小ビンや、ガラス細工のパイプや木を削って作ったパイプ、それから細かい単位まで、測ることが出来る(0.1の単位/グラム)電子量りまで並べてある。香子も、このガラスケースに並んでるもの達に対して、興味を持ったらしく、楽しそうに1つ1つを眺めている。

そんな香子の、楽しそうな横顔を見ていた彼は、ケースの中にアクセサリーも一緒に、並べてあることに気が付いて、1つ提案した。

「今夜、2人が出逢えた記念に僕から香子ちゃんへ、なにかプレゼントしたいな、一番気に入ったものを選んでみて、もしもチョイスで悩むような時は言ってね、僕が決めてあげるから」

翔一が、そう言うと、今までは、興味を映していただけのやわらかい視線に、真剣で力強いものをプラスしたのが見ていてわかった。

『今夜の出逢いと過ごした時間の記憶を、形にして残したいなぁ』

彼がそう思ったときに、彼女へのプレゼントを思いついた。この翔一の気持ちは、彼女の心に一語も違わず届いている。それは、彼女が真剣な眼差しで、ケースに見入るその様子を見てればわかる。