次の日、ボクシングを辞めた。

というより、もうトんだ。

ちょうど今月分の月謝を払った直後だったので、もうそこから一生行かなかった。

会長には「すいません。就活するので、辞めます」とだけ一方的にメールを入れた。谷岡さんから嵐のように電話がかかってきたが、一回も出ずに着信拒否した。

金髪坊主へのリベンジという最大の目標がなくなった今、僕にボクシングに行く理由も気力もなかった。ボクシングの楽しさみたいなのは勿論感じてきていたが、それだけで続ける理由にはならなかった。

そして冷静になって周りを見渡すと、当たり前のようにみんな就活をしていた。周りもみんな「あの会社の説明会に行った」だの、「あの会社の一次を通った」だのそんな会話ばかりだった。

今までもそういう話をしていたのだろう。でも僕は気づかなかった。いや、気づかないフリをしていた。

金髪坊主のリベンジのため強くなる。その一心で生きてきたからだ。ボクシングも辞めて、就活もしていない今の僕には何も残されてなかった。

目的を失ったゾンビのように過ごした。

バイトだけ行き、気が付くと一日を終えていた。

春休みに入り、その春休みも終わり、本格的に大学4年生になった。

さすがに大学のゼミだけは顔を出したが、もうすでに周りの会話にはついていけなかった。みんな就活の話をしていたし、ボクシングとバイトと満里奈との時間のせいで僕は大学の単位もろくに取れていなかった。死んだような目で下級生と一緒に大学の講義を受けていた。

そんなある日だった。隆志と学食でバッタリ会った。僕は隆志にダサいと言われて以降、距離を置いていたのでこうして2人で話すのは久しぶりだった。

「就活もう始めとるやろ? どこ受けんの?」

隆志が大学生なら当たり前のことを聞いてくる。僕は少し言い淀み、正直に答えた。

「実は……まだ何も決めてない」

「えっ」

隆志が目を丸くして驚く。

「いや、なにしとるん。もうみんな始めとるやろ」

「まあね」

就活なんて頭になく、金髪坊主へのリベンジのためにボクシングしていたとは言えなかった。

「隆志はもう決めてんの?」

「あー俺は、東京で探してる。服飾系の会社入ろうかなーって思って。」

隆志は大学の途中から、地元のラッパーの集まりに顔を出していた。そこでストリートファッションに興味を持ったようだった。農学部は全く関係ない仕事だと笑っていた。

次回更新は5月19日(火)、21時の予定です。

 

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目の当たりにした"大学生"の現実。大学生活は全て自分に捧げたはずだったのに、「僕は……僕は一体何をしていたんだろう。」

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