遊泳者のほうでも、プール利用前後に受付担当の女性達と軽口を交わすことはあるものの、半裸状態で若い男性や女性のLGと親しく話すのは憚られるのか、存在を無視するかのように会話をする人はいない。必要に迫られてLGに用具の使い方の質問をしたり、時にはLGから利用ルールの注意を受けたりすることはあるが、最小限、事務的な会話がほとんどだ。
私がスイミングプールに通い出したのは、五十歳になったばかりの頃だった。会社の同僚が水泳を始めたと言っていたのをきっかけに、私も近くの区民プールを探したところ、徒歩で行けることに気づき、以来十年通っている。
港ヘルスクラブは地域包括支援センターとして、高齢者の福祉施設も兼ね備えていた。そのためプールも高齢者の利用が多いのだが、プールでは水着で女性は化粧を落とした素顔でいるため年齢がわかりにくい。
身長百五十八センチと小柄な私は、BMI値は十七・五とやせぎみで、贅肉のない背中や腰回りに手足も細く、特に脚の形がきれいなためスタイルはかなり良い方だ。小顔で全体的にすっきりした顔のパーツは素顔だと幼く見える。実際、六十歳になったと言うと驚かれることが多く、水着姿だと華奢な私は四十代にも見えていたかもしれない。
彼と初めて話をしたのはその年の夏の終わり、子供を連れた家族連れが少なくなり、プールの常連客でいつものプールの風景を取り戻し始めた八月も終わりの頃だった。私がプールサイドで耳栓を落としてしまい、通常と異なる動きで探し物をしている時だった、
「耳栓ですか?」
彼に声をかけられた。ちょうどプールサイドでパトロール中だった彼が見つけて拾ってくれていたらしい。
「ブースに預けてありますよ」
と笑顔で告げられた。耳栓を受け取りスイミングを終えて、プールサイドを出る時には、プールを挟んだ一番遠い対角線上にいた彼に片手を上げてお礼を伝えた。
それが私が他のLGと彼を区別した最初の時だった。以来プールに行くと、あの子だったな、拾ってくれたのは、と気づくようになった。ただそれだけだった。
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