三
「ええ、彼はマレー人系カラードですよ」
十九世紀までの奴隷狩りで、多くのアフリカ人がアメリカ大陸に連れて行かれ、アフリカの白人たちはその代りにマレー人やインドネシア人を連れて来て奴隷不足を補った。そして黒人やインド人との混血児が生まれた。
この東南アジア人の二世三世の混血児たちが『カラード』と呼ばれ、アパルトヘイト(人種隔離政策)時代には黒人とは別のカテゴリーに位置づけられていた。
「カラードは黒人より下だったんだろうか?」
高倉が興味を示すと、アンドルーはあごひげを左手でいじりながら答えた。
「カラードといってもいろいろあります。原住民のコイ・サン系、東南アジア系、インド系などですが、総称してカラードという呼び方になっています。これらの非白人の内、黒人とカラードでの上下関係は明確ではありませんが、我々のイメージとしては黒人より下です。カラードは人間扱いされませんでした」
「日本でも江戸時代に身分制度があった。サムライと平民、さらにエタ、非人と分けていた。これも区別しただけで、明確に上下を定めてはいなかったという説もあるが、実態としては平等ではなかった。同じようなものかな?」
と高倉は首を傾げた。
「当時の南アフリカ政府は、日本の身分制度を参考にしたのかも知れませんね。いずれにせよ白人との区分ははっきりさせて、居住地や教育、職業、婚姻に関する障壁を作って差別したのです」
「うーん、区別して差別か……」
アンドルーの見識の深さに感心した。
二人が少し離れてひそひそ話をしている間に、黒人ポリスが、
「いくら取られたのか?」
と倉庫係のピートに聞いていた。
「チーフは五千ランド(九万円)と言ってました」