【前回記事を読む】iPS細胞もあるのに一体なぜ? 日本が欧米に追いつけない最大の理由は「死の谷」。これのせいで多くの有望な研究が実を結ばず…
第1章 創薬ベンチャーの現状と課題
――日本と世界の比較から見える壁
投資家の視点から見れば、創薬ベンチャーの成功を左右するのは大きく三つの柱です。第一に、革新的な技術や薬の候補を生み出す「技術開発力」。第二に、長期開発を支えるために不可欠な「資金獲得力」。そして第三に、研究・薬事・製造・経営など多様な専門人材を結集する「チームビルディング力」です。
しかしベンチャー経営において、資金以上に深刻なのが「人材の死の谷」です。
・米国:大学教授が起業 → 数年後にCEO経験者へバトンタッチする文化
・日本:創業者研究者がCEOを続投し、規制・経営の壁に直面
米国では、研究者が火付け役となり、その後は資金調達や経営に長けたプロ経営者にバトンを渡します。シリコンバレーやボストンには、複数回の起業を経験したシリアルアントレプレナーが豊富に存在し、研究者は安心して研究や技術開発に専念できます。
一方、日本では研究者が自ら代表を続けざるを得ないケースが多く、薬事経験者、臨床試験を主導できる人材、国際開発に長けた人材が圧倒的に不足しています。その背景には、大手製薬企業の人材が安定志向からベンチャーへ移りにくい文化や、報酬・リスク許容度の差もあります。結果として、資金を得ても適切に使いこなせず、企業の成長が阻まれてしまうのです。
そして最近、創薬ベンチャーにも冬の時代がやってきたという声も聞かれます。それは「5年100億円」とスイングバイIPOの現実です。
かつて日本のスタートアップにとって、IPO(新規株式公開)は「成長企業の証」であり、出口戦略の王道とされてきました。大学発ベンチャーやバイオベンチャーも、まずはグロース市場(東京証券取引所の新興市場区分)で上場を果たし、その後に成長と資金調達を加速させるという道筋を描いていました。
しかし近年、その常識が大きく揺らいでいます。東京証券取引所が打ち出した方針は明快です。「グロース市場は高成長企業の場であるべき」。そのために、2030年以降は「上場から5年以内に時価総額100億円を達成できなければ、市場変更か上場廃止」というルールが適用されることになりました。