【前回記事を読む】「最近、息子の様子がおかしい」と私に打ち明けた義母…迷ったが全て話すことにした。夫とあの女性の話や、私たちの事情を正直に…

再び抱きしめて

「ずっと黙っていてごめんなさい」

帳場の机を挟んで、よし子は雅彦と向き合っていた。

「私、怖かったんです。あなたに嫌われるのが。しつこいと思われるのが。だから距離を置いた。でも、それは間違いでした」

雅彦は無言でよし子を見ていた。帳簿の上に置かれた両手が、微かに震えている。

「小野寺さんのことで、あなたが傷ついたのは分かっています。私の過去に、あなたの知らない男性がいたことが辛かったんですよね」

「……ああ」

「でも、私が選んだのはあなたです。20年前でも、3年前でもなく、今のあなた。それだけは変わりません」

雅彦は目をそらした。

「……分かっている。頭では分かっているんだ。でも――」

「でも、じゃないです」

よし子の声が強くなった。自分でも驚くほど、はっきりとした声が出た。

「経営のことも、1人で全部背負わないでください。私はあなたの妻です。苦しい時にそばにいるために結婚したんです。蚊帳の外に置かれるのはもう嫌です」

(言えた。言いたかったことが、言えた)

雅彦がよし子を見た。その目が揺れている。

「お義母さんに聞きました。あなたが真由美さんを亡くしてから、5年間ずっと1人で旅館を守ってきたこと。笑わなくなったこと。ご飯も食べなくなったこと」

雅彦の唇が震えた。

「お義母さんは言いました。あなたが笑うようになったのは私が来てからだと。――もしそれが本当なら、もう1人に戻らないでください。私を、あなたの隣にいさせてください」

沈黙が落ちた。帳場の時計の音だけが響いている。

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