単なる先輩ではなく、ぼくにとって大事な戦友──これが大げさなら心の友としてぼくの心に、彼という存在が大きな位置を占めるようになった。全然面識はなくても、その水底からぼくを呼び止めるのだ。

ぼくは帰途の車中で、会ったこともない先輩に問うた。

──何があったのですか。自制心があるはずの、あなたを狂わせるほどの苦悩とは、いったいなんだったのですか。非正規? 納得できない世の仕組み? 人を人とも思わない非情な人間ども?

堂々巡りをしながら、駅に着くまで何度も先輩に問い続けた。降り立った駅地下の広場で、ロックの音楽をかけながら、狂ったように踊りまくる若者たち。しばしの息抜きになるのか、みんな陶酔したいい顔をしている。

あの先輩にこういう逃げ場はなかったのだろうか。破滅の道ではなく、自分を鼓舞する方法をなぜ探ろうとしなかったのか、見つけなかったのか。あるいは見つけられなかったのか。

あまりにも悲しすぎる。痛ましすぎる。喉元を掻きむしられる思いが、ぼくを叩きつけてくる。

──いったいどういう人生を歩んでいたのですか。

雑踏のざわめきを浴びながら、いつまでもその先輩に問い続けた。その先輩が自分に憑依したようにまで感じられた。

テツがその先輩を兄のように慕っていたと聞いたとき、ぼくにも同じような思いが芽生えた。あまりにも寂しそうだからか、先輩の孤独がぼくを引き留めるのだろうか。テツと同じような感情を共有してしまう。先輩の魂が、ぼくを捉えてしまった。今もぼくのそばにいる。そんな気さえするのだった。

実家への帰り道、誰かついてきているような気配を感じて、何度も後ろを振り向いた。それはぼくの単なる思い過ごしだったけれど、誰かいつもそばにいる。そういう気がしてならなかった。特にその日はそうだった。暗い夜道、どこからか囁く声が聞こえてくる。

 

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