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テツが見せてくれた写真が甦ってくる。事件を起こし自死した先輩の顔だ。誰かに似ている。誰かに……と思いながら、出てこない。彫りの深い顔立ちの眼窩は、湖底にたゆたう骸そのものだった。眼窩の奥底がそう見えてしまうから、イケメンだろうとテツに言われても、即座にそうだねとは言えなかった。この世の因業に抗い尽くせぬ憤恨すら抱かせた。

恩師の岡ちゃんに、情の厚い底意地のあるいいやつとまで言わせ、後輩のテツには、兄貴とまで慕わせる優しい人間が、水底の骸になるとは、いったい彼に何があったというのか。そこまで貶めたものはなんだったのか。

ぼくはテツたちと別れた後、その先輩の魂がぼくにのりうつったかのように、幾度もその問いを繰り返した。その憤恨が寂しさの権化となったのか。脳裏から離れないその骸は、ぼくをいつまでも雪原に置き去りにした。だから「寂しそうに見えてしようがない」と思ったままの言葉を、テツに吐いた。

己に巣くう魔物に気づいていた。いつか刃物を振りかざし、人を殺めかねない奥底に潜む魔物。アル中の父親を殺しかねない凶暴さを、自覚していたからこそ家を出て、一人で住んでいた、とテツから聞いた。

自制心はあったはずだ。何が、その魔物を目覚めさせ狂わせたのか─会社の上司を滅多切りにし、血しぶきを体中に浴びたまま、団地五階の屋上から飛び降りた。六年前の出来事だった。ぼくとテツは、そのとき中学二年生だった。

墓もない先輩の弔いとして、ぼくとテツは自死したその場所を墓と定め、毎年その日が来るとその場所へ出向いた。大学生になりその地を離れたぼくは、二年ぶりにテツと再会し、喫茶店で落ち合った後、別れて帰途についていた。

その先輩とは、テツのような兄弟に近しい付き合いはない。それどころか接点はまったくなかった。存在すら自分の意識にはない。ほとんど学校に行っていなかったぼくにとって、噂すら耳にしない。ましてや何年も前の先輩だ。事件が起きて初めて彼を知り得た。

テツとぼくと先輩の共通の担任が、「岡ちゃん」だという結びつきが、ぼくと彼をまた繋いだ。死後初めて、ぼくと彼とは知り合いになった。