プロローグ:「神」への道を阻むもの

赤ん坊は、約1000億個のニューロン(神経細胞)と、膨大な数のシナプス(神経細胞同士が情報をやり取りする接続部位)をもって生まれてくる。

シナプスの総数は、ニューロンの数をはるかに上回り、ニューロン1個あたり数千〜1万個に達する。

とはいえ、生まれたばかりの脳は、まだ学習が進んでおらず、システムとしては未完成である。ところが、どうだろう。数か月もたたないうちに、赤ん坊は親や兄弟の声を認識し、目を使って焦点を合わせはじめ、よちよちと立ち上がり始める。

これは、日々の外部からの刺激が脳に取り込まれ、学習によってニューロン同士のシナプス結合が形成・強化されるためである。

この学習が順調に進むと、数年もしないうちに、食べ物に好き嫌いが生じ、言葉を流ちょうに話し始め、自転車にバランスを取りながら乗り、絵本を読んだり、文字を書き始める。

個人差はあるものの、概ね20年もすれば、脳内の学習も成熟し、膨大なニューロンとシナプスのネットワークが発達を遂げ、人は社会的・生物学的に次世代を担う準備が整う。

人工知能(AI)の研究は、その名の通り、人間の脳の機能をコンピュータ上で再現できないか、というチャレンジの歴史であった。

かつて、人間は知性によって他の生命と明確に一線を画していた。道具を使い、言語を操り、理論を築き、文明を発展させる――そうした能力こそが、人間を特別な存在へと押し上げてきたのである。

しかし、AIが言語を理解し、論理を構成し、芸術を創出(正確には既存データに基づく生成)する時代において、知性はもはや人間に固有の特権ではなくなった。

この現実は、「人間がやがて神に近づく」という神話的モチーフを根底から揺るがしつつある。

では、人間はどのようにして「神」の領域を目指すことができるのか。