【前回の記事を読む】俺たちはいま、原始時代にいる――突拍子が無いことを言い出した早坂に周囲は騒ぎ始める…が、早坂は真剣な目をしていて…
Chapter1 天変地異
一方早坂は、難しい顔をして変形した浅間山を見つめていた。
彼の隣には男子大学生・沼田稔(ぬまたみのる)がいる。早坂は双眼鏡で山を覗き、時折沼田に渡して山を見せた。
二人は仲良しでしょっちゅう一緒にいる。同じ大学の学生である。
早坂はエリートの上に容姿がよく、物腰にも垢抜けたものがあったが、沼田は中肉中背、メガネで、顔だけむくむように肥え、あまり人に好まれる容貌ではない。
その上、滑舌が悪く受け答えが粘っこい。しかしうんちくはサークル随一で、仲間内では「人間グーグル」の異名をとっていた。
何か一つ単語を言えば、知っている情報をとめどなく話し始めるところが、まるで検索エンジンのようだからだ。早坂はひとしきり山を眺めた後、沼田を伴い、林に言った。
「林、昨日と比べて今日は冷えないか」
「うん」林はうなずいた。
「まるで秋の中頃のようだね」
「他にもおかしいと思うことがあるだろう」
「今朝も言ったけど、浅間山の形が変だ」
「それが、変なのは形だけじゃないようなんだ」
早坂は浅間山を指差し、「昨日と今日では、山の緑が違う。植生が違うんだ」
「植生?」林は目を凝らして浅間山を見た。
「言われてみれば確かに色は違うけど、まさか一晩で植生が変わるなんてことはありえないよ」
「それが、実際に変わっているんだ」沼田が口を挟んだ。
「ぼくらの知っている浅間山とすると、針葉樹帯が広い気がする。あと、噴火口付近の砂地の色ね。ぼくは昔、火山活動の歴史やその影響について読んだことがあるんだが、その本の言ってることが正しければ――」