Chapter1 天変地異

ゆるやかな風、緑のかおり。まばゆく差しこむ夏の光。

ここは群馬県嬬恋村、山の中腹にある笹見平(ささみだいら)キャンプ場。

空は真夏ながら涼しげな水色で、それにならうように、山も、草原も、森も、やさしい薄緑色である。南にのぞむ浅間山は、ぎざぎざしたてっぺんに、かすかな白雲をたたえている。

嬬恋村は浅間山と白根山に抱かれた高地で、キャベツの一大生産地として名高い。神奈川県の三浦市が春キャベツ、次いで夏の出荷を担うのが嬬恋村である。

笹見平は村内の高台に位置し、夏でも涼しく、日本で一番のどかな夏を楽しめる場所といっても言い過ぎでは無い。

どうやら古(いにしえ)からそうだったらしく、縄文時代の集落の遺跡が数多く見つかっている。古代人も夏の暑さを避けてここに居住したのだろう。

「はーい、みんな」規則的に手を打つ音に重ねて、若い男の声がした。

広場にばらばらにうろついていた私服の中学生たちは、 面倒な視線を男に向けた。

男は白Tシャツにブルージーンズ。短髪で、顔立ちは嫌味無くスッキリ整っている。だが、どことなく不安そうに目が泳いでいる。

「ちっ」

そばかすの茶髪少女が舌打ちした。

「何あれ。大学生ったって若造ね。ビビってんだわ」

横にいたピアスの男子中学生――口まわりの産毛が濃く、まるで不精髭のようで威圧感がある――が、「合わせてやらなきゃ。大学生の中には俺の施設のOBもいることだし」

「合わせる? まるでお世話キャンプだね。ウケるんだけど」

二人は、ふふ、と薄笑いし、他の中学生同様にぞろぞろと大学生の元へ歩いていった。

次回更新は1月21日(水)、22時の予定です。

 

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