「私、若い頃は父から受け継いだ海運会社を立て直し、成長させるために全力を注いできました。ですが、引退し妻とも死に別れてから世の中のことが少しずつ見えてきたんです」

「それで最近は選挙にたびたび出られているんですね」

「そうです。例えばこの国では少子化が進んでいます。これは深刻な問題なので、どの候補者も取り上げています。例えば『少子化が進むと若者一人が支える老人の数が増え、将来の年金制度が破綻する』という主張ですね。

しかしこれを唱える人は、高齢者がただ支えられるだけのお荷物と捉え、高齢者も適切な援助さえあれば、今一度生産者に戻れるのだという発想が欠けています。そこで私は東京モデルという形で、高齢者が豊富な経験を生かして、再び力を発揮できる環境を整えたいと考えました。家庭や病院に留まらず、社会に出て行動してもらいたいと思うのです」

〈あら? 急にまじめなことを……。もっと面白いこと言ってよ~〉

「それはいいことだと思いますが、田乃郷さんには具体的なアイデアがあるんですか?」

「はい。まず高齢者が働きにくいと感じる環境を改善する必要があります。高齢者は体力の衰えによって自由な移動が難しくなり、また認知機能の低下によって事務能力やコミュニケーション能力が落ちてきます。

こういった弊害から、効率重視の社会では高齢者を戦力外とみなすのです。けれどもこれらは現代のテクノロジーによってある程度は解決できます。例えば、都内全域をどこでも自動走行できる車を開発すれば、移動手段は確保できます。

これは、高齢者に免許証を返納させて、電車やバスに乗せようとするのとは真逆の考え方です。事務能力の低下の問題も、すぐれたアプリの開発で補完すれば、解決することができます」

〈そうだこれは賛成。安全のために高齢者から免許を返納させようというのなら、なぜ日本の交通事情も分からない外国人観光客に簡単にレンタカーを運転させるんだ〉

〈↑関心があるお年ですか?〉

「つまりそういう開発を都が指揮を執り自動車会社やソフト開発会社と共に行うのです。どこかの万博では空を飛ぶタクシーの開発をうたっていますが、そんな実現性の乏しい方向にお金を使うより、こちらを優先して欲しいと思います」

「あれは確かに遊園地っぽい発想ですね。あの自治体はテーマパークを抱えているので、そちらで活用してもらいましょう」

「それから、高齢者の職業訓練も重要です。パソコンのプログラミングや家電の技術、ドローン技術など、肉体労働以外のものは積極的にやるべきです。人生が100年の時代では80歳や90歳でも積極的に勉強しないともったいない。

ガンジーは『明日死ぬつもりで今日を生きよ。永遠に生きるつもりで学べ』と言いましたが、まったくその通りだと思います」

ここで田乃郷はゆっくりとジュースを飲んで喉を潤した。講演に慣れているのだろう。

 

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