【前回記事を読む】「終電過ぎたんじゃない? 泊まってく?…ベッド使っていいよ」彼女の家に泊めてもらった。翌朝、目が覚めると愛情いっぱいの…

スタート

一週間後。今朝は農作業を終えてから彼女たちの下へと向かった。たまには翔太くんに勉強のことを忘れてもらおうと思い、ボウリングや卓球、ファミレスで美味しいご飯をご馳走し、近くのカラオケ屋で飲み放題パックで歌い、大いに盛り上がった。

その日はどっと疲れた。年には勝てない。ボウリングは惜しくも翔太くんに僅差で負け、卓球は惨敗。カラオケは声量に差が。俺にとって翔太くんはまるで『異次元、神』の存在のようであった。

「オジさんの負けだよ。ボウリングは勝てそうだったんだけどなあ」

「若さだね」

「私は二人には敵わないなあ」

「俺たちアラフォーだもん」

「でも心は若いままよ。翔ちゃんにだって負けないんだから」

「そこ競い合うところかよ。まったく母さんたら」と、笑顔で楽しい一日を過ごした。

夕食は近くの焼き肉屋で食べた。

(周りからはどう見えてるのだろうか? 家族に見えるんだろうか?)

「……ねえ。ねえってば。聞いてる? 何度も呼んだんだけど」

「ごめん、ごめん。どうかした?」

「今度翔ちゃんが君の家を見に行きたいって」

「いいとも。大歓迎だよ。若い人は普段来ないから、村の人たちは目を丸くするかもな」

「じゃあ、寒くなる前。再来月に行くね。それでいい?」

「分かった。枕が合わないとつらいから枕だけは持参して。他は全部準備しておくから」

「ありがとね。今から楽しみ~。じゃあ、お会計済ませてくるね」

店を出て彼女が駅まで送ってくれた。電車の扉が閉まると彼女は手を振ってくれた。俺も振り返した。翔太くんは無言だったが気持ちは伝わった。遊び疲れたが新幹線の車窓から見える灯りが、今後の俺たちの明るい未来を切り拓いてくれる予感がした。

数日が経ち、彼女からメールが入った。

『来週の日曜日。上京できますか?』

『なんとか土曜日に全て作業を片付け終えれば大丈夫だよ』

『じゃあ、夕方六時に横浜駅待ち合わせで』

『分かった』

『その時はラフな格好じゃなく、少しおしゃれな服を着てきてね』

(おしゃれな服?)と不思議に思ったが、

『適当に探しておくよ』と返した。