「……久しぶりだね。元気にしてた?」

「なんとか元気に過ごしてるよ」

「そっかあ。ご結婚は?」

「独身だよ。君は?」

「私はバツイチ」

「そっかあ。お子さんは?」

「いるよ。今年の春で小学校六年生」

「名前は?」

「翔太だよ。翔ちゃんって呼んでる。日中はパートで働き、仕事が終わったら預けている児童クラブに迎えに行って、車で十五分くらいのところにアパートを借りて二人で生活してる」

「俺は古民家を買い田舎で暮らしてる。野菜の育て方が大変でさあ。これがまた重労働。野菜たちが繊細でさあ」

「そうなんだ。『野菜たち』って。うふふ。まるで子供のような存在ね」

「まあ、いろいろあってね。でも、こうして無事生きてる」

「良かった。今日ここに来て。君と会えてホントに良かった。ありがとね」

「こちらこそ嬉しかったよ。ありがと」

「二次会は行くの?」

「分かんない。まだ考え中」

「私行くから君も来て」

「うん。分かった」

「じゃあ、また後で」

離れながら笑みを浮かべたまま手を振り続けた。彼女の名は大黒美貴。愛くるしい笑顔は今でも健在だ。俺が高校二年の時、セミロングがとても似合う娘で、当時俺は彼女に片想いをしていた。だが彼女は別の同級生と付き合っていた。今でも鮮明に覚えている。その男と二人で手を繋ぎ下校していた時のことを……。

次回更新は12月12日(金)、22時の予定です。

 

👉『ライオンと鐘鳴らす魔道師[注目連載ピックアップ]』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】「いい?」と聞かれ、抵抗なく頷いた。優しく服を脱がされてキスを交わす。髪を撫でられ、身体を撫でられ下着姿にされた。そして…

【注目記事】あの人は私を磔にして喜んでいた。私もそれをされて喜んでいた。初めて体を滅茶苦茶にされたときのように、体の奥底がさっきよりも熱くなった。