セットリストNo.1(第一章)
6 Get Into My Car–Billy Ocean
「こんにちはー、車を取りに来ましたー」
翔一は、たくさんの車が並べられている工場の、その奥に向かって声をかけた。すると「こっちに、できてるよー」という言葉が、聞こえた。いつも、翔一のフィアットの面倒をみてくれるなじみの人の声だった。
翔一は声がしたほうに歩いて行き、声の主を見つけた。
「どうも、有り難うございました。やっぱし電気系統のトラブルでしたか?」
嬉しそうに礼を言ってから、原因を尋ねてみた。
「そうこの頃のイタ(リア)車はさぁ、特に電気系が弱いんだよねー。だから今回は、容量の大きなコードをはわして、バッテリーも大きい奴に換えといたから段然、調子よくなってるよ」
整備士の彼は、自信ありげに説明してくれた。
「ありがとう、支払いのほうは明日でいいですか?」
翔一が訊くと
「いいよ、いいよ、それよりとりあえず早く乗ってみなって、感動するよ。俺も、昔このフィアットほしいなあって、思った時期があるんだよX1/9」
彼は、懐かしそうにそう言った。
「本当ですかぁ、それは嬉しいなぁ、それじゃ早速ドライブしてみます」
そう言って翔一は、1週間振りに、X1/9のステアリングに手をかけた。キーをイグニションにさして、ひねる。セルが回った途端エンジンが静かに鼓動を始める。反応がまるで違う、エンジンの音も随分軽くなったみたいな感じがする。『気のせいかな』と思いながら、シフトレバーを1速に入れて、第2京浜に乗り出す。