第一章 出逢い ~青い春~
三
二月二十三日(月)の朝。優子は、柚木の書いてくれたメモを頼りに、西天満の駅前のビル三階へ上がった。廊下の奥のドアに「光愛法律事務所」と書かれていて、優子はドアをノックした。
メガネをかけた真面目そうな若い女性が開けてくれた。
「天地先生はいらっしゃいますか?」と、優子は聞いた。
「どうぞ」と、しきりのされた応接セットのあるコーナーへ通された。五分ほどして、背の高い男が現れた。優子は立ちあがってお辞儀をした。男は名刺入れを出し、一枚名刺を優子に渡した。
「名刺がなくて、すみません。私は、奥宮優子と申します」
「えぇ。柚木から聞いています。さぁ、どうぞ、おかけ下さい」
促されるまま、優子は椅子に腰かけた。そして、名刺を見た。「弁護士 天地 優」と書かれていた。
「あの……すみません。天地先生、下のお名前はなんてお読みするんですか?」
「僕は、アマチスグルです」
「スグルさんですか……私は優子です。同じ漢字ですね」と、優子は微笑んだ。
「そうなんですか」と、精悍な顔立ちの天地も微笑んだ。
「ここに住所とお名前を書いて下さい」と、天地は優子に紙を渡した。
「はい」と、優子は渡された用紙に、天地の貸してくれたペンで記入をした。
「ほんとだ。優子さんですか! 同じ漢字ですね」と、天地が驚いて微笑んだ。
「えぇ!」と、優子もまた微笑んだ。
天地は、優子の人を疑わない無邪気な笑顔を見て、一目で優子の純真さを感じとった。そして、柚木が優子を大事に思う気持ちがよく理解できた。
「遺産相続と、生命保険の事でお困りなんですよね」
「えぇ。私、何もわからないんです」
「平野にお住まいですか。一軒家ですか?」
天地は、優子の書いた住所を見ながら言った。
「はい。一軒家です」
「失礼ですが、ローンとか、ありますか?」
「いいえ。祖父の代からの古い家なので、ありません」
「名義人はお父さんでしょうか?」
「そうです。でも、相続税とか名義変更とか、どうするのか全く知らなくて」
優子は不安そうに言った。
「本当に大変でしたね」と、天地は優子を思いやった。